さおたむの激情派劇場

道なき茨道を超絶幸せに爆走する生き様を。

雲平線の見えるこの世界に恋焦がれた日

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耳障りな騒音と体の奥底に響く揺れ、何とも気持ち悪い内臓への負荷。

それを乗り超えた先には果てしない真っ白の世界が広がっていた。

 

何度見てもやっぱり私は飛行機の小さな小窓から見える雲の上の景色が好きで、いつも窓際の席を指定する。

 

地上にいる時は灰色の雲に覆われ昼間にも関わらず薄暗かったのに、分厚い雲を抜けるとそこは白と水色のみしか色という概念が存在しないようだった。

 

 

「天国の景色はこんな感じなのかなぁ」

ふとそんな思いが頭をよぎった。

 

小さい頃に刻まれた「死んだらお空にいくんだよ」なんて比喩は、きっとこの美しく広大な景色をみた誰かが生み出したのだろう。

死という必ず訪れる世界の消滅の恐怖をのこの素晴らしさで払拭するために。

 

翼を持たない人間は、だからこそ自力では訪れることのできない空に憧れや夢を抱く。

 

かくいう私も幼少期からことある事に空を見上げて、いろんな想いを馳せてきた。

その顔は多様なもので、晴天の日も土砂降りの日も、凍えるような雪の日も、立っているのもままならないほどの風の日も、様々あった。

 

 

その中でも最も忘れられないのは5年前のある日。

 

自分の凡庸さ、不甲斐なさに涙を噛み締め帰路をとぼとぼ歩いていると後ろから私の足跡を辿る自転車の風を切る音がした。

今にも積を切りそうな涙腺のままでは誰にも会いたくなかった私は早足でその場を立ち去ろうとするが、私が歩みを早めると同じようにそのタイヤと地面が擦れる音も早くなった。

 

ついに追いつかれた時、横目で隣を見ると同じ部活動に所属し世界で活躍している同期がいた。

彼は下を向いて歩く私の隣を器用にも自転車を降りることなく静かに走っていた。

こちらに目をくれることもなく、何か言葉を発するでもなく、でも寄り添って歩くように。

100Mほど歩いた時、彼は空を見上げながら独り言のように

「空が綺麗だね」

と宙に向かって言葉を放った。

 

 

「空って広くて大きいよね。空の上から見たら俺らの悩みなんてちっぽけなものなんだろうね」

 

 

彼が続ける言葉は隣で俯いていた私には充分すぎるほど届いていた。

気づけばそんな彼の遠回しな優しさで最後の砦は決壊し、もはや自分の意思では止めることは不可能なほどこぼれてくる涙を必死に拭いそれを隠すように空を見上げて歩いた。

 

 

「いつもありがとう。とても助かってる。また明日からも宜しくね!」

さりげなく私の家の前まで送ってくれていた彼はそう言い残すと、爽やかな笑顔を見せ、颯爽と去っていった。

 

 

あの時のその一言にどれだけ私の心は救われただろう。

そんな彼の素敵な言葉を生み出したのは紛れもなくあの日の広がる晴天の空だったに違いない。

 

 

あの日の言葉を私は今でも大切に心の中にしまっている。

だからこそ自分の歩む道を迷ったり悩みや不安に心を支配された日にはいつも空を見上げその偉大さに包まれる。

 

そして久しぶりにいつもは見上げてばかりの空の真ん中に浮かび、雲を見下ろしている今。

 

白と水色だけの終わりのない世界でこんなことを思った。

『空は浮かんでいる方が雄大だ。』

それは考えたとかいうよりも、ふってきたというか、まるでそれがあたかも当然かのような顔をしてそこにいる、そんな感覚だった。

 

 

斜めに見える地平線。

遠ざかり小さく見える地上の生活。

だんだんと見える白い雲。

 

そして白い雲の上に広がる広い世界。

地平線ならぬ雲平線とでもいえようか。

 

大過ぎるその大きな世界に存在すると、自分の存在の小ささと包まれる安心感を感じる。

私が今の場所から見る視点を何フィート上げれればこんな穏やかな世界で日常を過ごすことができるのだろうか。

 

 

成長とはそういうことなのだろう。

下からでは見えない。想像するしかない。

何かの力を借りてしか覗くことはできない。

だからこそ人はその世界に恋焦がれる。

 

自らの力でそこに行きつけた時には、それまでの自分の行いも悩みもすべて小さく大したものではなかったと、優しい気持ちで想えるのだろう。

 

いつかその雲の先にまで行けるように。

そんな想いを抱える頃に、飛行機は下降をしだし、シートベルト着用サインがついた。

だんだんと雲を抜け、小さな地上が見える。

 

また、この景色を見にこよう。

その時には今とは違う見え方をできるような自分になって。

近づいてくる現実の生きる場所を見つめながら、気を引き締めるようにシートベルトを締めた。